君主論

君主論 (岩波文庫)

君主論 (岩波文庫)

ルネサンス期イタリアにおける、マキャベリの政治論です。 

「権謀術数」と聞くと一見聞き心地が悪いけれど、当時のイタリアの現状と、マキャベリが敬意を抱いたチェザレ・ボルジアの思想を鑑みると、マキャベリが本書において訴えたかったことがわかった気がしました。 

今の日本は民主主義を、謳っています。 

彼の政治論も、民主主義に近いです。 

「結論として述べておきたいのは、ただ一つ、君主は民衆を味方につけなければならない」 

これは現代民主政治におけるリーダーシップの考え方と結びつくように思います。


「民衆の願いは、貴族のねらいより、はるかにまじめなものであって、貴族の望みは抑えつけることだが、民衆は抑圧されないのを願っているだけである」 

私的、この考え方は、大阪市長の、橋本さんの考えとかぶる部分があるように思います。 



権謀術数を繰り広げて他人をだますべきという発想も、だますべき対象は、貴族が基本となっている。貴族は平和なときには君主から金や権力をもらおうとします。 

しかし、他国と戦争となり、君主の力が弱まったとなると、君主は平然と貴族に舌を見せる。民衆のために、彼らの願望を果たすようにした方が良いと考えます。 

民衆は他国との戦争において、君主を支える強力な土台になってくれる。革新的なアイディア、パラダイムをぶち破るような思想、進歩的な発想。 


民衆が求めるものは、様々です。 


もし他国に一時的に侵略されてしまっても、民衆の信頼を得ていれば民衆が動く。貴族や官僚組織ではなく、その国の民衆にこそ、国家の力の源泉があるという発想が彼の考えです。 


なるほど、いつの時代にも断片的ながら通じる思想があるのだと思いました。 



マキャベリの言う「君主」は、一応は人格を持ったものです。しかし実態はかなり抽象的です。本書における君主は、国家と言いかえることもできます。 

アメリカ独立宣言はフランスの啓蒙思想家であるルソーの思想的な影響を受けています。それは、現代社会における、自由や、平等という思想に結びついています。 

自由や平等といった権利を実現しようという彼の思想の素地には、 


「政治権力が民衆のささやかな幸せを実現していく」 

「これこそが国家の力を最大限に強めることなのである」 


といった考えがあります。 

彼は本書において、上記内容を敷衍しています(はっきり言うと、本作の翻訳はあまりわかりやすい方ではないけれど)。

マキャベリは、現代社会に通じる上記思想を述べた点において、現代社会におけるリアリズムの先駆者といっても過言ではないのかもしれません。